ハートに火をつけて(Light My Fire)
火がつく瞬間ってのは、ホント人それぞれみたいだ。
そんなことで火がつくんだって、わかんないもんよね。
ねぇ、わたしにも煙りをちょうだい。
あなたは煙りを口に含んで、頬は膨らんで、いつもよりおどけた表情で
「こっち?それともこっち?」とモゴモゴさせながら、自分の唇と手に持った煙草を指差した。
「こっち」
っと言ったと同時に私はあなたの唇を塞いだ。
ゆるやかにあなたの口の中に浮遊していた煙りが、私の口内に流れ込んでくる。
まるで永遠の一瞬。
本当に時が止まったのかと思うぐらい、長くて、でもそれはきっと時間にしたら数秒なわけで。
ああ、もしかしたらこの恋のハイライトはそこだったのかもね。
「・・・飲んじゃった。」
と言って私はあなたの口から受け取った煙りを胃袋まで深く飲み込む。
あなたは、嬉しいような、戸惑っているような表情。
「ねえ、いやだった?」
「・・・嫌・・じゃない・・・けど、ダメなんだよ。ダメなんだよ」
って、必死に理性と戦うあなた。
ほら、こうなるともう城を崩すのは簡単。
「なんでダメなの?」「どうしてダメなの?」「何が嫌なの?」「なんでそれがダメなの?」「ねえ、どうしてもいやなの?」
質問攻めにされてあなたの表情は見たことのない、
困ったような、嬉しいような、
何かを裏切り始めていることを薄々と感じたその顔はとても歯痒そうで、とてもキュートだ。
そして「もういいや」と言ってあなたは私を初めて抱きしめた。凄く強い力で抱き寄せた。
さっきとは違う、煙りの存在のない、ただそこには愛情と欲情が純粋に混ざり合ったくちづけをする。
多分ね、あなただけじゃなくて、さらに私の方だって。
ハートに火がついた。